顎関節症でお困りの方へ
欧米では顎関節症についてTMD(Temporomandibular Disorders)という視点から治療することが主流となっており、国内の顎関節症の治療法とは少し異なる考え方を持っています。TMDは顎関節症と訳されていますが、正確には側頭下顎障害と訳します。まず顎関節症は、口を開けると音がする、口を開けると痛い、口が開きにくい、などといったことが代表的な症状として知られています。
欧米ではそのような症状を訴える症候群(症状の集まり)を、TMDと呼ぶと定義付けています。国内において顎関節症といった場合、その原因は「咬み合わせ」にあるという考え方が主流で、口の中を一生懸命診ていた時代があるのですが、TMDは咬み合わせを含めて、さらに広い視点で診断をつける考え方といえるでしょう。過去の疫学調査は、TMDの罹患率が5~50%で、15~40歳の特に女性によく見られることを示しています(女性:男性=3:1~8:1)。
TMDの治療は咬合調整から外科手術まで、そしてバイオフィードバック(biofeedback)療法や簡易精神療法を含む緊張緩和療法、理学療法、運動療法および薬物療法まで様々です。顎関節症における痛みの問題にしても、TMDでは関連痛という視点も含めて検証することになります。首の周辺は神経や血管が他の部位に比べ非常に豊富であり、神経だけをあげても三叉神経、顔面神経、脊髄神経などさまざまあります。これらの神経はお互いに連絡通路をもっています。歯が痛いと頭痛も起こるといったことがありますが、関連痛とはこのように痛みの発生部位と痛みの発生箇所が異なる現象を指します。つまり顎関節部に痛みを感じる場合は、顎関節部だけを診るのではなく、周囲の神経や筋肉、靭帯あるいは歯も含めて調べる必要があるということです。TMDについて、米国では六カ月以上痛みが続くケースも問題となっています。頭痛や腰痛なども含め、いわゆる疼痛を持っている方の場合、痛みが六カ月以上も続いてしまうと、感作といって脳が過敏になり、その時点で痛みがなくても痛みを感じてしまうことがあるのです。これは一種の感覚異常ですが、慢性疼痛症候群と呼ばれるケースで多くみられることがあり、治療も難しく慎重な対応が求められています。米国ではこうしたケースがTMDの場合でもみられ、顎関節の痛みのほか、腰痛や肩こりなどを訴える傾向があるといいます。
チーム医療による
アプローチが不可欠
痛みは主観的なものですから、それを客観的に測定するのは難しい面があります。患者さんによっては自身の痛みを社会的に理解してもらおうと、痛いと言ったり顔をしかめたりするなど、痛みを積極的に訴える行動=疼痛行動を起こすことがあります。こうしたケースはドクターショッピングにもつながり、医療費を圧迫する原因の一つともなって、欧米では社会問題化しています。
複数の診療科の連携、医科と歯科の連携など、チーム医療によるアプローチがすでに行われています。先ほど日本では顎関節症の原因が咬み合わせにあると考えられた時期があるとお話しましたが、欧米では咬み合わせが原因となるケースは低いと考えることがすでに主流となっています。咬み合わせに原因がある場合、歯を削る治療などを行いますが、もし原因が他にあったとしたら、どうでしょうか。その患者さんは低い方の歯で咬もうとしてバランスが偏り、筋肉の疲労や、やがては炎症さえ起こしかねません。TMDはさまざまなことが原因となり、場合によっては心理的な側面から探る必要もあるといえます。実際、うつ傾向やストレス、睡眠障害を伴う症例もみられています。また、二十代から四十代の女性に多い傾向もあり、性差やホルモンの影響から診る視点も求められることがあります。
できるだけ早い段階での受診を
冒頭述べましたように、TMDの治療を行う上では外傷や炎症、腫瘍、代謝性疾患など、顎関節に他の疾患がないことをまず除外する必要があります。診断はまず問診を行い、筋肉と関節の検査、そしてMRIによる画像診断をつけることが必要です。その上で、理学療法や薬物療法、セルフケアの指導、湿布、超音波療法、痛みの神経の興奮を抑えるTENSなど、患者さんに応じたさまざまな治療法を考えていきます。医科の医師との連携も必要になりますが、日本ではまだ課題といえるでしょう。いずれにしても長期化する程治療も難しくなるため、気になる場合はできるだけ早い段階での受診をお勧めします。
口腔顔面痛でお困りの方へ
口腔顔面痛とは?
歯や口、顎の痛みや違和感があるにも関わらず、どこの病院でも異常がみつからないと言われ、苦しんでいる方がいらっしゃいます。これら「口腔顔面痛」は、日本では非常に取り組みの遅れている分野といえます。「痛み」の分類は多岐にわたりますが、大きく分けると「体の痛み」と「脳の中で起こる痛み」があります。体の場合は、体が傷ついて起こる痛みと、神経そのものが傷ついて起こる痛みに大別され、こちらの治療法は確立されていると言えます。
原因不明の痛み
診断の難しいのは脳の中で起こる痛みで、これはストレスや感情と強く関連し、脳の中の痛みをコントロールするシステムが変調を来して起こるため、通常の検査では検出できません。レントゲン画像等では明らかな異常が認められず、原因不明の歯痛を非定型歯痛と言います(顔の場合は非定型顔面痛)。歯に原因がない場合は、異常がないため経過観察となり、逆に原因が特定できないまま治療や手術を行い、より状態を悪化させてしまうケースもあるのです。主治医や患者さんの行き違いにより、訴訟やトラブルになるケースもみられます。
それぞれの症状に合わせた治療を
「歯・口・顎の原因不明の痛みをどう捉え、どのように治すのか。」それが口腔顔面疼痛学です。原因不明とされる場合は、次のような症状が多くみられています。
- ●口が開かない
- ●口を開けると顎が鳴る
- ●顎が痛い
- ●神経をとったのに歯が痛い
- ●歯を抜いたのに歯が痛い
- ●根の治療が長引いていて痛みがとれない
- ●舌がピリピリ痛い
- ●義歯に問題がないのに入れ歯が痛い
- ●咬み合わせが安定しない
- ●歯・口・顎が痛いが原因がわからない
このような症状の治療を行っていくうえでは、歯、口、顎の痛みや違和感を引き起こす明らかな原因がないことを確認することが必要です。体に異常がない原因不明の痛みの場合、脳に起きた変調が原因と考えられ、この際は脳に働きかける薬を服用することが必要となります。
しかし今の医療では、歯科医が精神科の薬を処方することはできません。
医科の医師にお願いする必要が生じ、私も「口腔顔面痛学」の考え方を理解してくれる医師に処方をお願いしています。もちろん、原因不明の痛みといっても、心理的なストレスが関わっていたり、うつ病など精神的な病気で起こる場合など様々です。場合によっては認知行動療法など心理面へのアプローチが必要になることもあります。ストレスをなくすことはできなくても、対処法を身につけることで症状の軽減を図ることも可能です。三叉神経痛・舌咽神経痛・側頭動脈炎・破傷風など、歯科以外の他の病気が、歯・口・あごの痛みや違和感を引き起こしている場合もあります。そのような患者さんへの対応をしっかりと整備していくためには、内科・脳神経外科・神経内科・心療内科・精神科・耳鼻咽喉科・婦人科・ペインクリニックなどの医師や心理療法士など広く連携をとって治療に当たっていく必要があります。
非歯原性歯痛の分類
- 1. 筋・筋膜性歯痛
- 2. 神経血管性歯痛
- 3. 神経障害性歯痛
- 1) Episodeic:三叉神経痛
- 2) Continuous:帯状疱疹性神経痛
- 4. 心臓性歯痛
- 5. 神経障害性歯痛
- 6. 上顎洞性歯痛
- 7. 特発性歯痛
- 8. 精神疾患による歯痛
- 9. その他の様々な疾患による歯痛
(井川 雅子 日本歯科医師会.64(1):86-89,2011.日本口腔顔面痛学会 非歯原性歯痛診療ガイドライン.2012.4月)
「顎関節症・口腔顔面痛・口腔内科外来」診療日【予約制】
◆対象となる症状
顎関節症、原因不明の歯・舌・口・顎・顔面の違和感や痛み、口腔粘膜疾患、口が渇く、口臭、金属アレルギー、口内炎、くいしばり・歯ぎしりによる症候群、味覚の異常、いびき・睡眠時無呼吸症候群
診療日 | 診療時間 (午前) |
診療時間 (午後) |
担当医 |
---|---|---|---|
木曜日 | 09:00~ 13:30 |
15:00~ 17:00 |
飯沼 |
第4 水曜日 |
09:00~ 12:00 |
13:00~ 17:00 |
和嶋・ 飯沼 |